よぉ、タカヤ。夏大ぶり。
その後どーよ、ケガの経過は。
ま、お前ならキチンと治すだろーし、あんま心配してねーけど。
ああ、ほいでな。ちょい今日の放課後とか、時間ある?
部活おわったあとでいーから。
「あっれ、阿部、やけに早ぇじゃん」
着替えるの、と付け加えた田島が一瞬の後「ははん?」としたり顔でうなづいた。
「ずばり、コレからデートだろ!」
「なんでそうなる」
言いながらチョップを振り下ろしたら直撃。
結構な手ごたえにちょっとギョッとしたけど、田島本人はケロッとしてるからまぁ、大丈夫だろう。
「榛名だよ、榛名。なんか放課後付き合えってさ」
「あ、今朝のアレ?」
どこから沸いて出たのか、結構近くからかかった栄口の声に内心驚いて、けれど何事もなかったように「おう」と返えした。つーか、なんでそんな食いついてくるのかね。
別に人が放課後どーしよーが、関係ねぇとおもうんだけど。
それこそ、しようと思えばこれからの季節、時間的意味でデートだって可能になる。だけど、だ。
相手がいねーんだから、どうしよーもねぇし――・・・そう、相手が。
チラリ、と斜め前で着替え始めた三橋を目で追う。
ゆっくりゆっくりボタンをはずしていく、その動作。
ちらつくうなじ、横から伺える伏せがちな瞳。
あれが、全部、俺のものに、なったら。
―――・・・なんて、な。
うん、やめよう。そういう妄想はやめだ、ヤメ。
前はこんな妄想だとか、そんなのもなかったのに、自覚したとたんだもんな、マジちょっとへこむ。
息を吐いて、カバンを肩に引っ掛け、ドアに向かおうとしてふと、背中に突き刺さる何かに気がついた。
それは少し尖った気配で、首筋の辺りがチリチリと痛い、ような。
不自然にならないように、ちょっと思い出したようにバックをおいて、ジッパーをあけて。あけながらその少し尖った気配がするほうに、視線を向ける。
鈍く鋭い光を燈した濃い蜂蜜色の瞳が、その先にあった。
ギクリ、と体がこわばるのを感じた。
なんで、と心が悲鳴を上げるのを聞いた。
震える指先で、カバンの中を必死であさってケータイを手に取り、バックを肩にかけてそのまま踵を返す。ドアノブに手をかけて「んじゃ、帰ーるわ。お疲れさん」と後ろ向きに中へ声をかけて。
俺は、部室から、逃げた。
鈍く鋭い光を燈した濃い蜂蜜色の瞳から、三橋の目から、逃げた。
何であんな顔、すんの。
俺今日何にもしてねぇだろ。
朝練の時も、放課練の時も、ていうか、さっき俺が帰るまでなんとも・・・――まさか、あのメール、か?
いや、そんなの、ほんとに"まさか"だろ。
大体榛名からのメールで、なんで三橋があんな。
あんな、腸が煮えくり返ってます、って顔、すんの。
でもじゃあほかに思いつくことなんて、ねぇし。
じゃあもし、あのメールで三橋があんなけ怒ってンなら、理由は?
考えられる最も有力なのは"俺が榛名に取られる"的なものだろうか。
もちろん捕手的な意味合いで、だけれども。
いやでも、ぶっちゃけその線は低すぎる。なんといっても榛名は学校が別だし。
『阿部くん、西浦、やめる?』
うわ、久しぶりに思い出した。なんだよまったく、こんなときに。マジこれ軽くトラウマだろ。
クソ、恨むぞ三橋。いやでも、そうか。そうだった。
三橋には大分、常識が通用しないときがある。普通なら考えもしないことをポンポン思いつく奴だし。
それもマイナスの方向におもいつくってんだから、目も当てらんねー。
ああ、でも、そうか、そういう理由なら、また今夜にでもメールすればいいんじゃねーか。
そうとなれば、まずは榛名の用事から片付ければいいな。
俺はひとつ頷いて、チャリをこぎ始めた。
愛の病