<<!ご注意!>>
アベミハ前提というか「愛の病」終了直後です。
さらに盛大な単行本未収録部分のネタバレがあります。
さらにさらに、アベミハなのに阿部が出てきませんこれ如何に。
さらにさらにさらに、しのーかちゃんがちょっと暗いです。
読まなくても今後に影響はないです、多分。
以上、ちょっとやばいかもしれね、と思う方は戻ったほうがいいでしょう。








 

最初に「アレ?」って思ったのは確か、夏合宿のときだったと思う。







阿部くんと三橋くんが一緒に朝ごはんを作ることになって、監督が二人のことを心配して、私を最初のうちだけ2人に付けた(最初のうちはなんでかなぁ、って思ったけど、一緒にいて気がついたんだよね、あ、この二人じゃご飯無理だ、って)のが、切欠だった。と、思う。たぶんね。

私はよく、阿部くんを見てた。

中学が一緒だったって言うのもあるし、家が近くだったっていうのもあるし、何よりも、野球をしてる姿がすっごくすっごくキラキラしてて、カッコよくて。

そう、うん、好きだった。

私、阿部くんが多分"そういう意味"で好きで、よく見てた。
だから、たぶん、気がついたんだと思う。





阿部くんが、三橋くんを見るときだけ。
阿部くんが、三橋くんに声をかけるときだけ。
阿部くんが、三橋くんと一緒にいるときだけ。
ほんちょとっとだけ、阿部くんが、普段角ばってどこか四角っぽい雰囲気の阿部くんが、ふんわりと丸く、やわらかくなるの。


最初は、バッテリーだからだって、思った。
思ったんだけど、やっぱりなんか、どこか違うって、私の中の警報ランプがチカチカ光って。
そうしてそのうち、私は阿部くんだけじゃなくて、三橋くんも見るようになった。




三橋くんは、優しい。
優しくて、努力家で、それでちょっぴり、自分に自信がなくて、臆病。
ちょっと、そう、なんか、ウサギとか、リスみたいな。
雰囲気もそんな感じで、男の子としてはちょっと頼りなさそうって言うのが、普段の三橋くんの印象。
どっちかって言うと守ってあげたいタイプっていうのかな、母性本能が凄くくすぐられる。

けど、マウンドに立つときにだけ、そのどこか琥珀めいた瞳の置くがギッと光って、全然違う顔になるんだ。

やっぱり男の子なんだなあ、なんてしみじみ思ったのは、確かええと、新人戦の時だったと思う。
それで、そうやって三橋くんを見ていたら。
違うな、三橋くんを見る阿部くんと、阿部くんをみる三橋くんを見ていたら、気がついちゃった。





阿部くんも、三橋くんも、お互いが好きなんだって。





けど、阿部くんだけ、三橋くんの気持ちに気がついてないんだって。
三橋くんは、多分、あれは、気がついてた。
気がついて、阿部くんを意識するようになって、それで、好きなっちゃったんだ。
女の子にはよくあるパターンで、けど、でも、男の子ではどうなんだろう。
そもそも男の子同士だけど、いいのかな。・・・いいはずが、ないんだけど。

なんて思っていたことを突如に思い出したのは、阿部くんと三橋くんの雰囲気が、朝と夕方でガラリと変わったから。

悪い方向じゃなくて、そう、良い方向に、付き合う方向に行ったみたい、で。

最近はずっと、変な感じで、なんだかお互いに距離を置いてるみたいだったから、ああ、これは、ひょっとして。
ひょっとして、お互いに気がついて、距離を置いたのかな、なんて思ってたんだけど。
私は、そうか、そのほうがお互いのために、今後のために、いいんじゃないのかな、って思ってたんだけど。

 




―――ソウシタラ、阿部クン、私ノ事ニ気ガツイテ、クレル、カモ。





いや、いやいやいや、違う。
違うから私。なに考えてるんだろ。違うから。
そんな真っ暗な気持ちなんか、持ってないから、違うから。
だって、私は、決めたんだよ。
阿部くんが好きなんだから、阿部くんが幸せなら、それでいいじゃないって。
ソレは本当で、本当のことで。
本当の、ことなのに。




ならなんで、こんなに、くるしいんだろう。




胸の奥がぎゅうぎゅうと締め付けられるみたいに苦しくて、息をするのもあっぷあっぷで。
まるで、そう、引きちぎれない真綿のやわらかさに、押しつぶされそう、な。

 

 

 













「篠岡、さん」

気の弱そうな声にハッとして、あわてて振り向いた。
やだ、私、手元とまってる。
しっかりしなくちゃ。マネジなんだよ、私。

「あ、な、何、三橋くん」

へらり、と笑う。
大丈夫、大丈夫、ちゃんと笑えてるはず。
笑えてるはずなのに、三橋くんはその琥珀色に近い瞳で私のことをじっと見つめてくる。
その色に、少しだけドキリ、とした。
マウンドに立ってるときみたいで、けど、でも、ソレよりもどこか透明で、奥の見えない、引きずり込まれそうな、飲まれそうな、色をしていた。

「苦しく、ない?」
「え、」

じっと覗き込んでくるその瞳からちょっと逃げたくなって、何が「苦しく、ない?」なのかも判らないまま、私はちょっとだけ及び腰になった。

「こ、こんなこというの、違うってわかってるし、知ってる、し」

―――あ。

「オレが適任じゃない、のも、判る」

ああ、だめ、だめだよ、三橋くん。
それ以上は言わないで、判っちゃった、三橋くんが何を言おうとしてるのか。

「っていうか、オ、レが、原因だから」

やめてよ、嫌だよ、三橋くん。
私は大丈夫なんだよ、だから。

「オレが心配するとかそういうの、癪に触るってのも、判ってる、けど、でも、だって篠岡さんは」

琥珀色の瞳が、揺れる。
困ったように、泣きそうに、けれど、でも、本当に泣きそうなのは。








「篠岡さんは、女の子だから」







困ったように、泣きそうに、三橋くんが笑う気配がして、でも、私は。
私の視界はもう、雨の日のフロントガラスよりも世界がぐにゃぐにゃ歪んでて。

「あのね、いいんだ、溜め込まない、で。殴りたかったら、殴ってくれても、いい、カラ。」



オレ、知ってたんだ。篠岡さんが、阿部くんのこと、好きなの。
夏合宿のときから、知ってた。
知ってたんだけど、でも、ごめん。
ごめんね、篠岡さん。
篠岡さんも、オレと阿部くんのこと、気がついちゃったんだよね、ごめんね。
苦しかったでしょ、ごめん、ごめんね。
オレ、その気持ち、なんとなく、わかるから。
だから、ごめんね、オレ、酷い奴で、ごめんね。



言葉の、雨が、降る。
三橋くんの、暖かくて、優しくて、けれど少しだけ残酷な、言葉の雨が。

「オレの事、キライになって、いいんだ、よ。そのほうが、楽、だ」
「・・・そな、の・・・む、り」

無理だよ、三橋くん。私、三橋くんが、優しいのも、努力家なのも、ちょっぴり自分に自身がないのも、臆病なのも、マウンドの上ではカッコイイってことも、全部全部、知ってるんだよ。

ムリだよ。キライになんてなれないよ。

そういったら、三橋くんが「篠岡さんは、優しいね」なんて、笑った。
ちがう、違うの、三橋くん。
優しくなんてないんだよ、全然そんなこと、ないんだよ。
私は酷い奴で、三橋くんのほうがずっとずっとずーっと優しいんだよ。

けど、でも、そうか、そうだね。

三橋くん、ごめんね。その優しさに、ちょっとだけ溺れさせてね。
せっかく、私のためにくれた優しさだから。ありがとう、ごめんね。

「三橋くん、私、私ね」
「うん」
「阿部くんのこと、ずっと好きだった」
「うん」
「けど、でも、ずっと言わないつもりだった、の。野球の邪魔に、なる、て、思っ」
「うん」
「あ、のね、それで、ね」
「うん」
「私、野球をしてる、阿部くんが、好きだった・・・ううん、違う、今でも好き、だよ、だってカッコイイから」
「うん、そうだね、判る。阿部くんはカッコイイ。キラキラしてて」

そう、キラキラしてて。
阿部くんも、三橋くんも、みんなみんな、キラキラしてて。

いいなって、思ったんだ。
羨ましいなって、思ったんだ。

みんなと一緒にグラウンド駆け回って、みんなで一緒に笑いあって、それで、それから。
阿部くんと仲良くなりたくて、もっともっと知りたくて、もっともっと話したくて。
けど、でも、それが、できなくて。
私は、私は、わたし、は。













わたしは、やきゅう、してないの?












違うよ、私。
ちがうでしょ、私。

私、みんなと野球、してるじゃない。
阿部くんとデータ交換したりして、野球、してるじゃない。
私、西浦高校野球部の、ただ一人の、マネジだもん!

「三橋くんっ!」
「ぅぁっはいっ!」

私の大きな声に驚いたのか、三橋くんはビョッって跳ねた。
ソレがちょっとおかしくて笑ったら、三橋くんがちょっとだけ目を見開いて。

「あのね、三橋くん。私まだ阿部くんの事好きなんだ」
「う、お」
「だから、あのね、三橋くん」

私はがんばって、ちょっと上のほうにある、三橋くんのどこか琥珀めいた目をじっと見返した。

「私をライバルにしてもらっても、いいかな?」

勝てないの、判ってるんだけど・・・じゃ、ないな。
もうすでに、私の中で阿部くんのことについては決着がついてるんだ、と思う。
きっと、三橋くんが"篠岡千代が阿部隆也の事を好き"だって事をわかってた、判っててくれていたというのが一番効いた。
そう、私、誰かにこの気持ちをわかっててほしかったんだ。

それで、でも、私は、欲張りだから。

阿部くんと三橋くんのこと、まだ、見ていたいから。
後ろ向きじゃなくって、ちゃんと前向きに、見ていたいから。
キラキラ光る彼らにまけないぐらい、キラキラ光る私になりたいから。

だから、三橋くん、ライバルになって。
これは私のわがままで、やっぱりなんだか違う気もするんだけど、でも、だって。
私だって、いつかはあなた達と対等に、キラキラしたいから。

三橋くんは目を一回真ん丸く開いて、両目をパチパチとさせた後、なんでか、どういうわけか、ニカッとキレイに、ひまわりみたいに笑って「うん!」とうなづいてくれた。





それがあんまりにもキラキラしてて、まぶしくて、きれいだったものだから「あ、なるほど、阿部くんはきっとこの笑顔にノックアウトされたんだ」なんて妙に納得しちゃったよ。







 

恋敵宣言

だってだって、しのーかは阿部君のことすきだっていうの、今日ふと思い出しちゃったんだもん。
そしたらなんかしのーかも悩んでそうだと思っちゃったんだもん。
ぐるぐる悩んで、けどでも、彼女を助けられそうなのが、三橋くんしかいなかった。
(だってしのーかが阿部くん好きって気がついてるの、ほかにクソレしか。それもクソレっちはしのーか好きだからなぁ)
でもウチの三橋くんは基本的に紳士なので、きっと気がついたら救済するだろうなあ、どうにかして、とも思ったのです。
ただ、しのーかですからね。
きっと多分最後は自分で自分に決着をつけそうだよなあ、とおもって、こんな形にしました。
なんかちょっと不燃上気味、だ、けど、ううん、難しいね。
ちなみになんで三橋が「ニカッ」だったのか。
ライバル=修ちゃん=仲のいい友達
みたいな図式が、彼の中には、あるのです(笑)