意識が急に浮上してきて、あ、起きちゃった、なんて思った。
おきたけれど、目は開けない。
隣で規則正しい息遣いが聞こえてきて、阿部くんはまだ寝てるんだって気がついたから。
だから、目は開けない。
目を開けたらこのぬる温かい彼の腕の中から起き上がらなきゃいけない気になって、そう自覚したら、オレはどんなに後ろ髪を惹かれても、起き上がってしまうから。
だから、目は開けない。
けど、でも、起きてるから、どうしたって阿部くんに触れたくなっちゃって。
ゆるゆると、阿部くんの方へ左手を伸ばして、彼の頭に触れる。
少し硬い、阿部くんの真っ黒な髪。
産毛と髭が混在してる頬。
ドクドクと波打つ首筋。
薄い皮に守られた鎖骨。
規則正しく膨らんでしぼむ、胸。
すすす、と移動して、胸に額をくっつける。
ああ、阿部くんの心臓の音、だ。
ドクドク、ドクドク、ドクドク。
ねぇ、阿部くん。
ほんとは阿部くん、起きてるでしょう。
だって、ねぇ阿部くん、早いんだ、音が。
さっきから、早いよ、心臓の音。
でも、オレ、目は開けないから。だから、気づかない振り、したあげる。
だから阿部くんも、気づかない振りしてね。
二人とも、寝たふり。オレも阿部くんも、寝たふり、だ。
そう思ったらちょっと顔ニヤけちゃって、ちょっとだけ恥ずかしくなってきて。
もう気づかない振りとかどうでもいいかな、とかおもってきて。
口を開いた。
「あべくん、すき、だよ」
寝起きのオレの声はちょっと掠れてて、阿部くんに聞こえてたかどうか微妙だったけど、阿部くんのいつの間にか俺の背中に回ってた右手が、ぎゅっとオレを抱き込んでくれて。
阿部くんは声を出してないのに、なんでか、阿部くんが「うん」ってうなづいてくれたような気がした。