三橋が、朝練の終わりがけに倒れた。
こんなこと当たり前だけど初めてで、オレはこの前みたいに頭から血の気が引いて。
ただ、膝から崩れて前のめりに倒れていく三橋見ながら、叫ぶことしかできなかった。










保健室なんて、西浦に入って初めて行く場所だ。
普通の教室みたいな引き戸をガラリとあけたら、目の前にデンと薬棚があって、ちょっとびびった。
及び腰になりつつ保健室に侵入して、机に向かってる保険医に「あの」と声をかける。

「ちわス、野球部の阿部ッスけど」

その名前を呼ぼうとすると、声が震えそうになる。
けど、でも、だって今回あいつが倒れたの、たぶん、俺のせいだから。
自意識過剰じゃねーの、なんて思うところもあるけど、なんとなくそうだって、思ったから。

「あの三橋・・・くん、は」

あいつのことを君付けで呼ぶなんて、野球部に入った直後一回だけじゃねーのかな。
そう思ったら、ちょっとだけ苦笑がもれた。

「あー、1年9組の三橋くんね、そっちの窓際のベッドで寝てるわよ。さっきちょっと起きて、ご飯だけ食べてまた寝てもらったから。ちょっとまだフラフラしてるし、今日の部活は休ましてあげてね」
「そうスか。あの、ついててやってもいーっスか」
「ええ、どうぞ。あ、でもチャイムなったら教室帰りなさいね」

保険医に「どもっス」なんて頭を下げてから、一番はじっこのちょっと黄ばんだカーテンをゆっくりめくって、中に体を滑り込ました。
簡素なベッドは三橋の大きさに膨らんでいて、少しだけもそもそと動いてる。
あ、こいつ、横になってるだけで、寝てねぇ。

「三橋」

小さく、名前を呼んだ。
大きく、ベッドが跳ねた。

「起きてンだろ、顔、見せろ」

もそもそと、ベッドの布団が動いて、同時に俺のケータイのバイブが震えた。
三橋から、メールだ。
眉間にしわが、盛大によった。

顔みせらんねーのか、顔みせたくねーのかしらねーけど、それはないんじゃねーの。
だってお前、俺が好きなんだろ。
あの、あのときの、あの夜のメールは、そういう意味だったんだろ。
気がつくの遅れたけど、そういう意味だったんだろ。
なのになんで、距離置こうとしてんの。
やっぱりお前、肝心なところで意味わかんねーよ。
どうすんだよ、これから、どーしたいんだよ、お前。

悲しさと悔しさと寂しさとで、手が震えた。

 

 

 







From:阿部隆也
Subject:無題
―――――――――――
会いたくない。

 

 

 







下唇を噛む。
ケータイを持ってる手が、震えてる。

「なん、で」

喉から出る声が、震えている。

 

 











From:阿部隆也
Subject:無題
―――――――――――
いま、ごちゃごちゃして
る、から。オレ、変な
こといっちゃうと、思う

 










「変なことって、なに」

 












From:阿部隆也
Subject:無題
―――――――――――
言わない。
気にしないで。
とにかくいま、オレ、
気持ちの整理が覚束ない
から、ごめん、教室いっ
て。せっかく顔見にきて
くれたのに、ごめんね。
ありがと。
もうちょっとでオレ、
ちゃんと整理、できるか
ら。ちゃんと、するから。

 













整理って、なんだよ。
気持ちの整理って、なんだよ。
どういう意味でいってんの。
俺のことを"阿部隆也を好き"って気持ちに、整理つけようとしてんのか?

まてよ、おい。

まってくれよ三橋。
何一人でつっぱしってんだよ。
それに俺まだ、何の返事もしてねえよ。
ていうか、あのメールがそういう意味だったとしても、お前、俺に、ちゃんと"好きだ"ともいってねえんだぞ!
いいのかよ!!そんなんでいいのかよ!!












俺は、いやだ!!













「三橋」

足を動かして、ベッドの脇まで歩く。
ベッドの上の塊が、ギシリと固まった気がした。
布団を頭までかぶった状態の三橋が、ベッド脇からだとよくわかる。
そんなんでお前、苦しくねーの。
息、できてねーんじゃねーの。
俺は思い切って、布団をガッともってバサッと払いのけて、布団から現れた背中を向けて丸まってる三橋の肩ぐっとつかんだ。
ビクリとゆれる身体。怯えてる。三橋が、怯えてる。

けど、もう、知らない。

そんなの、しらねーよ、俺は。片思いとか、両思いとか、もうそんなのどうだっていい。
俺は、意味深なメールも、距離とられんのも、ぐるぐる思い悩むのも。
もう、たくさんなんだよ!!
















「三橋、俺は、お前が、"三橋廉"が、好きだ」

愛の病

わかってると思うけど、保険医、いますよ?(うわあああああああ)