夕暮れの海は、なんだか切ない。









それは家路に着くからなのか、隣に三橋がいるからなのか。
来たときとは打って変わって、静かな鼓動。
妙なセンチメンタル感。そんな感情なんて、いらねーのに。

「・・・風、出てきたぞ」

夏といえど、もうすぐそこに秋の気配はあって、夜はある程度冷える。
三橋は視線を海に向けたままで「ん・・・」と、名残惜しそうにつぶやいた。

「楽しかったか?」
「ん。スナメリ、可愛かった」
「ああ、お前、10分は動かなかったもんなぁ」

でっかい水槽の前でピクリとも動かずに、首を上に固定したままボンヤリと見つめる三橋を思い出して、プッなんて思い出し笑い。
ムッとしたのか、眉間にしわを寄せた三橋が海から視線を俺に向けた。
ただし、瞳の奥に楽しそうな色を秘めて。


――・・・ああ、うん。



「・・・よかった」
「う、ん?」
「お前、こっち来たとき、疲れてたっぽかったから」
「・・・」

大学に入って学校が分かれた俺たちは、なかなか会えない。
所謂遠距離恋愛中だ。
たまったもんじゃねーよ、本当に。
けど、でも、だって、仕方がなかったんだ。
俺も三橋も、同じ大学に行こうだなんて、いわなかった。
いや、言えなかったというのが正しいのかもしれない。
あの時はお互いにいっぱいいっぱいで、いろんな物を持て余していたから。
こうして二人で、いまだに"恋愛"というものを続けられているのが不思議に思えるぐらいには、持て余していたから。

「心配、した?」
「・・・まぁ」

探るように覗き込んでくる、濃い蜂蜜色の瞳。
なんだか直視ができなくて、視線をそらしてみる。
さまよった視線の端に、少しだけ人の悪い笑を浮かべた三橋の顔が移りこむ。

「疲れた、と、いうか。足りなかった、んだ」
「・・・何が」
「アベタカヤ成分」
「は、あ?」

アベタカヤ成分ってなんだ。
阿部隆也成分か。
いやいやいや、なんだよそれは。
というかどんな効能があるんですか、俺成分。
複雑怪奇な百面相をしていたら三橋が「フヒッ」なんて、可笑しそうにいつもの笑い声をたてて、次の瞬間に軽い衝撃。

「っと、おっまえ、急に抱きつくんじゃ」
「たかや」










息を、呑んだ。










耳元で、ささやくように紡がれたのは、名前。
俺の名前。
三橋が、俺の名前を、呼んだ。

「たかや」

三橋の背中に、腕を回す。

「たかや」

つむがれた俺の名前は、甘い響きと潮風を含んでいて、ああ、何でだ。なんで。

「たかや、すきだよ」

何度も、いわれてきた言葉だ。
幾度も、囁かれてきた言葉だ。
何時も、つむいできた言葉だ。
非常に、聴きなれた言葉だ。

ああ、けど、でも。
ああ、うん、そうだ、そうだな。






「俺も、好きだよ、廉」






そういって、亜麻色といっても過言ではない、ふわふわとした髪を、撫でた。







そうだ、

デートに行こう

長らく放置プレイした結果がコレだよ!(うわあ)
というわけで、大学別々で遠距離恋愛ちうな彼ら。
そこに行き着くまでのさまざまな葛藤を今後書いて・・・いけたらいいなぁ!←