目の前に、海の中を見た。
エントランスの前面に張られた巨大なガラスの向こうで悠々と泳ぐ、魚の群れ。
魚の群れの合間をスルリと抜けていくエイの親子。
静かに波を受ける珊瑚。
ずっとずっと上のほうにある電球が、まるで無数の月のように柔らかな光を水中に届けている。
オレは吸い寄せされるように、巨大なガラスの前に文字通り張り付いた。
数センチ目の前を通過していく、縞模様の平べったい魚。
じっと見ていたら目が合った気がして、ちょっとドキドキ。
エイの親子は頭の上のほうを旋回していて、エラを動かす様がよく見えた。
全体的に藍色と緑色の珊瑚は、御伽噺の人魚姫が座る台座みたい。
「な、すげーだろ」
声に後ろを振り返ったら、阿部くんがニッと笑って「コレ、一番見せたかったんだ」なんてつぶやいた。
「一番最初にココきたの、たぶん幼稚園のときだったんだけどな。子供心にホント、感動してさ」
「…うん、判る」
視線を阿部くんから、巨大なガラスの向こうに移した。
ガラスを隔ててるのに、波を感じる。
潮の匂いを感じる。
まるで、そう、まるで。
「海の中に、いる、みたいだ、ね」
振り返って笑ったら、阿部君はちょっとだけその瞳を丸くして、またあの、キレイな笑顔を俺にくれた。
ああ、そうか。
そうか、なるほど、阿部くんは海が…――海の中が、好きなのか。
オレが星を見るのが好きなように、阿部くんもきっと、海の中が好きなんだ。
そんなことを思ったら、顔が勝手に綻んで。
阿部くんと、阿部君の好きなものを、共有できてる。
なんだかくすぐったくて、すごく嬉しくて。
胸の奥底にまた、阿部くんの真っ黒な瞳に燈る暖かな光と同じものが燈った。
そんな気が、した。
そうだ、
デートに行こう