最近よく、同じ夢をみる。
今日も同じ夢を見ている。
夢の中にいて「あ、これ夢だ」ってわかるおかしな夢だ。





オレはいつもみたいにミットを構えて、三橋にサインを送る。
すると三橋はとたんに頷いて、要求どおりの球をくれて。
内側左下にシュート、内側右下にスライダーをボール、外側真ん中にストレート、内側右上にストレート。
全部要求どおりの球で、三者凡退なのに。
けど、なのに、何でか。

なんでか、三橋が、笑わない。

いや、違う。
笑ってるんだ。
俺が夏大ぐらいの時期に「マウンドでは笑顔がイイね」なんてちょっと冗談でいってやったら、あいつはクソ真面目にもほどがあんだろってくらいに、ソレをマウンドの上で実践しやがった。
いや、別に、それでいいんだけど。マウンドでキョドられるより、そのほうが良ンだけど。
あの笑顔は作った笑顔だ。傍目にもおもいっきり"張り付いてます"って笑顔。
けど、でも最近は。
本当に最近、投げるときには。俺がサインを出すときには。俺のサインに頷くときには。
あいつは一瞬だけ「ニカッ」って笑顔になる。
すっげー幸せそうに、まるでヒマワリみたいに、俺が始めてみたあの笑顔で、笑ってくれるんだ。

夢の中の三橋は、ソレがない。

何回サインをだしても、三者凡退させても、どれだけ声をかけて褒めても。
ずっとずーっと、あの張り付いた笑顔。

なんでだ。なんで?
夢ならなお更。クソ、どうなってんだよ、俺の夢なのに。
夢の中ぐらい、俺にお前をくれよ。頼むから。お前が好きなんだよ。お前のあの「ニカッ」って笑顔が見てえ。
そんな張り付いた、こわばった笑みじゃなくて、俺に、俺だけに、笑いかけてくれよ。

思いながら、サインをだす。
ど真ん中に、ストレート。

三橋の濃い蜂蜜色の瞳がギラリ、と鈍い光を燈した。
18.44mも離れているマウンドの上に三橋はいるはずなのに、その鈍くて鋭利な眼光が、俺を突き刺す。

『阿部くん、勘違い、するな。オレは・・・――』

 

 

 






 

 

 


ピヨピヨピヨピヨ。

 




 

 

 

 

 


「・・・」

荒い息と激しい動悸と目覚まし時計の音で、目が覚めた。

―――ほら、夢だった。

軽く息を吐いて、自分自身を安心させるようにつぶやく。






・・・安心させるように・・・?







無意識に右手をぐっと握り締めて、振り上げて、そのままベッドに叩きつけた。
拳はボスンッと少し重い音を立てただけで、視界に移りこむ世界に、変化はない。
ギリッと、下唇を噛み締めた。
なにやってんだ、俺は。たかが夢ごときに頭ンなかぐちゃぐちゃにして。
しっかりしろ。あと10分で支度しねえと、朝練が。

「・・・大丈夫だ」

俺は、大丈夫だ。
あんな夢、全然気にしてねぇし。そもそも夢だし。突き詰めれば俺の妄想だし。
三橋があんな顔で、あんな。あんな、コトを・・・―――。

 













『阿部くん、勘違い、するな。オレは、阿部くんを、そういう意味で、好きなんかじゃ、ない』

 









「・・・っせぇな」

わかってんよ。そんなこと、わかってんよ。
三星との練習試合のときに、三橋、お前はオレに「オレも阿部くんが好きだ!」っていったけれど。
俺の好きとお前の好きは、違ぇ。わかってんよ。そん位。当たり前だろ。俺だって自分が自分で信じらんねンだよ、未だに。
けど、でも、ダメなんだよ。一回自覚したら、もう元に戻せねぇ。

俺は、三橋。お前をそういう意味で好きなんだ。

そう思ったら、鼻の奥がツンとして視界がぼやけた。ああ、何朝から泣いちゃってんの、俺。




愛の病

乙女で純情な阿部くんは、三橋が好きだと思うたびに苦しくて涙が出ちゃう。