ジャーンジャジャジャーンジャージャジャーンジャージャジャーン
部室内の空気が、一瞬にして凍りついたようだと、オレは思った。
というか、実際にオレは凍りついた。
そのぐらいインパクトの強い、誰も一回は聞いたことのある超有名なSF映画の着信メロディだった。
しかもそのメロディが、阿部くんが今まさに手にとったケータイから、つまりは阿部くんのケータイから流れているという事実。とても凄く見てはいけないものを見てしまった気分だった。
チラリと横を見ると、西広くんが何かを我慢してるみたいな顔をしている。
その真横では水谷くんが盛大に噴出していて、その後ろの沖君は肩を震わせていた。
「あーべ!何その着信音!」
なんかイミシーン!と、オレの目の前で着替えていた田島くんがニヤニヤと笑う。
阿部くんは特に気色ばむでもなく、静かに眉間にしわを寄せてからごくごく浅く、ため息をついてみせた。
「マナーにすんの忘れてたんだよ」
「ちっげえよ!相手誰だって話だろ!」
「あーあれだよアレ。榛名からメール」
「うっわ・・・」
「阿部、お前、アレだな」
「アレだねぇ "根に持つタイプ"」
巣山くんと栄口くんのからかい混じりな声に阿部くんは「うっせえ!」とちょっと苦く笑ってから、手早く着替えを済ませてケータイの操作をはじめた。
なんとなく、その様子をもそもそ着替えながら見つめる。
榛名さんと、連絡取るように、ちゃんとなったんだ、よかった。
そう思う傍らでどす黒い、ドロドロした、モヤモヤした、なんだか良くない感じの感情がぐるぐると渦を巻く。
なんでそんなに急いで返信するんだ。
なんでちょっと、どこか嬉しそうにしてるんだ。
もういいじゃないか。踏ん切りがついたんだろう?
もう、他の学校の、他のチームの、他に相方のいる投手じゃないか。
オレとするメールは、あんなに短いのに、なんでそんなに長いこと打ってんの。
今は、オレが、相方なのに。オレはこんなに、阿部くんが好きで。きっと阿部くんも、オレが・・・――。
―――・・・じゃ、ないだろう、俺。落ち着け。
ゆっくりと、息を吐く。さっきの朝練でやった瞑想の要領だ。
肺の中を空っぽにして、一緒に真っ黒な感情も外に出るのをイメージして。
ほんの少しだけ、気休め程度に小さくなったどす黒い感情を、後はさっさと胸の奥の奥の奥のほうにしまい込む。
だめだ、やっぱりだめだ。だめだった。
だから、ほら、言わんこっちゃ無い。
独占欲丸出しじゃないか、オレ。まったく、自分が自分で嫌になる。
本当、嫌な奴だなオレは。そこんトコ全然成長してない。判ってた事だけど。
もう一度息を吐いて、セーターを上から引っ被った。
「みーはし!着替え終わったー?」
「あ、た・・・うん、ごめん」
どうやら待っててくれていたらしい田島くんにあやまったら「いーって!んじゃいこーぜ!」なんて肩を叩かれた。
田島くんは、今日も元気だなぁ。
うん、と頷いて笑いながら部室のドアをくぐるときに一瞬だけ、ケータイ画面からチラリと目を上げた阿部くんと、視線が絡んだ。
絡んだだけ、だった。
愛の病