三橋との距離が、遠い。
18.44mしかないはずのマウンドも、実は1キロぐらいあるんじゃないかって錯覚するぐらい、遠い。
なんでだ?
メールの返信がなかったの、怒ってんの、か?

 





 

あのメールを、俺は返信しなかった。
いや、返信できなかったというのが正直なところで。
どーする?と聞かれたんだから、俺はそのフリに答えなきゃいけなかったはずなのに。
俺は、その"どーする?"に対する"無難な答え"を持ち合わせていなかった。
三橋が俺に嫉妬、なんて、そんな、夢見たいなことがある分けないし。
でも嫉妬してたのが本当だとしたら、思わず小躍りするほど嬉しい。
嬉しくて、嬉しくて、きっとまた、あのわけのわからない涙がでてくるに違いなかった。
だから、俺は、返信できなかった。
返信した後で三橋に、嫉妬なんてそんなわけないって、ただ阿部くんが嫉妬なんていうから、本当にオレが嫉妬してたらどーいう反応なのかなっておもって、なんていわれて、俺の気持ちを否定されるのが怖かった。
そう、もし、あのメールに本気で返事をしてしまって、俺の三橋に対する気持ちがばれてしまったら。






『阿部くん、勘違い、するな。オレは、阿部くんを、そういう意味で、好きなんかじゃ、ない』







あの、夢の中の三橋が、現実になってしまう気がして。
そういえば、あのとき。あの、怒った顔の三橋は、夢の中の三橋に似ていた。
濃い蜂蜜色の瞳を、ギラリと鈍く光らせて。
心臓を射抜かれているのかと、錯覚するぐらいに、ドキリとした。
マウンドで相手を見据えるのとは、また一味違う凄みを秘めた瞳。―――凄み?








アレ?

 





まて、まった。
そうだ、あの時三橋は、怒っていたんだ、確かに。
メールでは否定していたけど、確かに怒ってたんだ。

じゃあ、なんで、怒ってないなんて、嘘ついたんだ?
俺に知られたくなかったのか、怒ってたって。
俺に知られたくない、オレがらみの怒り事って。






それって、それは、まさか。






本気で、榛名のメールに、嫉妬、してた?

それで、俺にその嫉妬を悟られたくなくて、嘘をいったの、か?
筋道は通る。
筋道は通るけど、でも、それは。
それは・・・―――

 








三橋が、俺を好きだっていう、前提の入る公式、だ。

 






血液が、頭の上からざぁぁと音を立てて引いた。

ちょっと、まて、なんだよ、それ。
三橋が、オレを、好き?
嘘だ、そんなの、ありっこない。
そんなことが、起こりうるわけが、ない。
だって、そんなの、おかしいだろう。
俺は確かに三橋がそういう意味で好きなんだけど、でもコレは特殊なんだよ。
変なんだ。おかしいこと、なんだ。両思いになるとか、そんなことはこれっぽっちも、望んでないんだ。
俺の秘めた思いってだけで、ずっとずっと、それこそ墓場まで、もってくつもりで。
だから、そんなはずは。

 






―――・・・嫉妬だったら、どーする?

 





チクショウ!!
なんなんだよ、どうしてだよ!!
両思いになったって、苦しいのはわかりきってンだよ!!
だから、片思いで、俺だけの思いで、そのまんまでいようと思ってたんだよ!!
なんだよ、チクショウ、こんなの!!










・・・こんなの、どうしたらいいか、わかんねーよ、三橋。



愛の病

気がついたけど、気がついたら気がついただけ、苦しい。