「レン!!行って!!」
無数の足音に急かされるようにして、ルリは声を荒げオレの背中を軽く押した。
ほんの少しだけ蹈鞴を踏んで、視線だけをルリに向ける。
泣きそうな、顔。
「早く、レン。大丈夫、心配しないで。叶がうまくやってくれるから」
ウソツキ。
大丈夫なんかじゃ、ないくせに。
オレを逃がしたなんて知られたら、あいつらの矛先はルリと修ちゃんに行く。
「ルリ、オレは」
「レン、今この場で"オレは大丈夫だから、もうやめよう"なんていったら、その口、利けないようにするよ」
じっと見上げてくる黒曜石のような瞳に、うぐっとのどを鳴らした。
いつだって、この従妹はオレの心をまるで見透かしたように、先んじて言の葉を並べる。
オレは肩にかけた旅用の布袋をぐっと握り締めた。
「…あり、がとう」
オレの小さなつぶやきを、従妹は確実に拾い上げて少しだけこわばった顔を緩める。
ああ、ごめん、ごめんね、ルリ。
オレはいつも迷惑をかけてばかりだ。
オレ、男なのに、情けない。今に始まったことじゃないけれど。
今はそれが口惜しくて、悔しくて。
「レン…外に行っても、」
「っっい、いたぞぉおおーーー!!!"金炎琥珀"だーーー!!!」
「!!」
瞬間響いた大声に、オレは意を決してルリから視線を外した。
「あの位置は…まさか開門を!?」
「どこまでも小癪なっ…武器をもて!氷弓矢、用意ー!!」
「しかしそれでは"創玄黒曜"殿に…!!」
「かまわん!手引きしたあの小娘と"氷星群青"のバカ息子もすでに同じ狼藉者だ!!」
「…っ、出すぎたことを、申し訳ございません」
"開門"して門を通ってしまえば、もう追っ手はこない。
「弓矢、放てぇーっ!!」
"外の世界"に、"鍛冶師"は干渉しないから。
「"金炎琥珀"の三橋廉が命ずる。外界中元繋縁門【開門】!!」
瞬間、空気に亀裂が走り、空気が氾濫し、風が荒れ、放たれた弓矢が散る。
"外界中元繋縁門"に形はない。
簡単に言ってしまえば範囲のバカ広い開閉可能な"結界"だ。
開閉可能といっても、それは内側からだけ。
外側からはどうあっても開けることはかなわず、さらに内側の住人は、これを開けることを硬く禁じている。
そう、硬く、禁じている。
「ルリ」
「ん、なぁに」
「…元気、で」
口元を無理やり上に上げて、一瞬だけ振り返った。
迫る武器を持った男たち。怒号。無数の足跡。
その中心で、ルリが、笑って口を動かした。
「レンも、げん」
ルリが言い終わるよりも先に、門はその亀裂を音もなく閉ざした。
輝く石の仄かな光