「あーったくっ!誰かいねぇのかよ、ここ通る奴!!」

おもわずもれただいぶデカイ独り言だけれども、俺はぜんぜん、すこっしも、悪くない。
悪いのは全部、あの腰抜けどもだ。

 


 

 

 

「は!?黄昏森を通って王都までいくぅ!?」

冗談きついぜ坊さんよぉ!なんて嘲笑が飛び交かって、その一瞬後に、下卑た笑いと野次を飛ばしていた巨漢どもが吹っ飛んだ。

いい気味だまったく。
僧侶なめんじゃねーよゴロツキ共が。

なんて、僧侶にあるまじき暴言を吐いてから、俺はその場を後にした。
言っておくが、その場で見物を決め込んでいた町の衆の視線が痛くて、逃げ出したわけではない。決してそんなんじゃねぇし。気にしてねぇし。
今に始まったことじゃねぇし。
僧侶は暴力を振るっちゃいけないって、確かに掟はあるし、むしろ僧侶が暴力を好まないのは常識だ。
だから俺があのムカツクいけ好かない筋肉だるまを吹っ飛ばしたことは、うん、まあ、その、なんていうか、非常識なことなんだよ、うん。そういう自覚はあるんだ。
自覚はあるけど、でもだって、ムカツクじゃん。
ついついイラッときてつい頭に血が上って、こう…あーもー、いいや、考えない。
そうそう、今に始まったことじゃねンだし、考えない。
大僧正にもさんざ言われて、それでも直んなかったんだ。こりゃもう、しかたねーんだよ、うん。

 

 

 

 

なんて、いくら言い訳を心の中で並べてみても、目の前にデンと構えた"黄昏森"の門番は動いちゃくれない。

 

 

 

 

俺はこれ見よがしにため息をついた。

王都に行くには2通り道がある。
一つは安全な公共街道を延々と進む道。ただしこれだと危ない森やら湖やらを迂回していくルートになるので、ものすごい時間がかかる。ここからだとどんなに全力でいったって4ヶ月はかかる計算だ。
それだと、間に合わない。
俺はどうしても2ヶ月の間に王都にいかなきゃなんねぇ。
2ヶ月内に王都にたどり着き、どこかのギルドに所属できなかった場合、せっかく出られた大聖堂に逆戻りだ。
それだけは、なんとしても、避けたい。
という理由で、俺はもうひとつのルート、ものすごく危険ではあるが、どんなに遅くなっても生きていれば1ヵ月半で王都にたどり着けるという"黄昏の森"を突っ切ろうとしている。
の、だが。

俺は門番の横にでかでかと張り出された張り紙を、もう一度見つめ、ため息をついた。

「なんなんだよ、2人以上のパーティでなければ通せない、とかさぁ」

そういう理由で、冒頭に戻るのである。
俺はもう一度ため息をついて、踵を返そうと足に力をこめた。
面倒ではあるが、もう一度町まで戻って同行してくれる仲間を探さなければ。
やりたくは無いけれど、もし集まらなかったら誰か雇って・・・―――。

 

 

 

 

 

「あ、の…」

 

 

 

 

 

ものすごく意志の弱そうな、それでこそ蚊の鳴くような声と形容するのが正しい声が聞こえた。

俺は期待をこめて、ぐりんっと首を回す。
だってこの場にいるのは俺と門番だけだし、当然俺に声をかけたんだろう。
あれだ、きっとさっきのでっかい独り言が聞こえて、そんでもしかしてもしかしなくとも、一緒に通ってくれるとか?
そうだといいな。いや、そうでなくっちゃ困る。

「ヒッ」

振り返った先にいたのは、ひょろっこい少年と青年の間ぐらいの年の男だった。
俺と同い年ぐらい、か?と思考が疑問系になるのは致し方ないことだと思う。
いや、蚊の鳴くような声をだすぐらいだから、ものすごく意志の弱い奴なんだろうな、というのは一瞬で予想できた。
予想できたが…。
俺はちょっとばっかり失礼といわれてもおかしくないぐらいには、目の前の同い年ぐらいの男を見つめた。

象牙色の肌に、色素の薄い蜂蜜色の髪。
怯えているのかほんの少しだけ唇の色は悪いが、心なしか水膜の張った瞳は綺麗な琥珀色。
脇差は、なんだ、アレ。杖…だろうか。いや、杖はあんな形状を取らないはず。とにもかくにも見たことのない武器だ。
しかし武器を持っているということは少なくとも"ただの旅行者"というわけではない。
何かしらの"職"をもち、魔物や野生動物と戦えるだけの武芸を嗜んでいる、はずだ、だぶん。
確信が持てないのはやっぱり、何かしらの"職"を持っている者が必ずもっているはずの、覇気とか、そういう部類のものがあまり伝わってこないからだ。
いや、まったくない、というわけでもないんだけど。
てか、そっちから声かけてきたはずなのに、怯えて固まっちゃってるってどうよ。
しかも涙目だし。

「おい」
「は、え、うっ、ご、ごめ、ごめんなさっ」
「はぁ? なんでいきなり謝ってンの? 声かけてきたのそっちだろ、何か用あンだろ?」

だからさっさといえよオラ。
さっさと"一緒に森通りませんか"っていっちゃえよ。
てかそれ以外の用事なら即効ぶっ飛ばす。

なんて口には出さないが心の奥底で叫んでいたら、目の前の男はますます青くなって、青いのを通り越して土気色になった。
あ、ちょっとなんか、ヤバげ…?

「あの、お、おれ、おおお、お、お…れ…」
「あ、おい!!」

男はそのままバタリと倒れた。

 

 

 

って、コレどうすんの・・・えー・・・?


輝く石の仄かな光