ホームに着いたときから、磯のにおいがしてた。
少し生臭くて、スーパーの生魚コーナーみたいな匂い。
うわあ。
うわあ、うわあ…!!
「海、だっ!」
「匂いだけな」
こっからじゃ見えねーよ海、なんて冷静っぽく言ってる阿部くんも実はちょっぴりコーフン気味なんだってこと、知ってるよ。
暖かい光の燈った真っ黒な瞳が、ほんの少しキラキラと何かを期待するように、何かを待っているように輝いて、キレイ。
それがなんだかうれしくて「ウヒッ」って笑ったら、阿部くんはちょっとだけ視線をそらして、後ろ頭をガシガシとかき混ぜて。
「ま、いくか」
「ん!」
オレンジ色の切符を改札に通して駅から出た。
ギラギラした晩夏の太陽がオレと阿部くんを刺し貫いて、白く焼け付いたアスファルトに2人分の影をつくる。
やっぱり帽子もってきて、正解だった。
じんわりと出始めた汗をタオルで拭いたら、阿部くんが「ほれ」なんて、アクエリをくれた。
どこから出したんだろ、なんて考えながら「ありがと」とそれをもらう。
やっぱり阿部くんって用意周到だなあ。
…用意周到だけど、やっぱり時間たってるから、ぬるいなぁ。
「なんだよ」
「ぬるい、デス」
「ぜーたくモンめ」
いいながら、阿部くんの顔は笑ってる。
その笑顔にうれしくなってオレも笑ってたら、涼しげな音が耳に届いた。思わず音の方向に顔がいく。
波の音、だ。
「…阿部くん、あの」
「ん?」
「オレ、海側あるき、たい」
水族館に行くまでの道は4斜線のでっかい道に挟まれてて、別に海側に行かなくたって途中で渡れるんだけど、でも、だって。
せっかくの、海だから。
阿部くんと、はじめてきた、海だから。
だめかな?と、つぶやきながら阿部くんの方に顔を戻したら、阿部くんがすごく、びっくりするぐらいキレイな顔で、笑ってた。
何かを愛しむような、尊いものを見るような、眩しいものを見るような。
呆気にとられてまじまじと阿部くんを見つめたら、阿部くんはその笑顔のままオレの手をとって。
「ほら、いくぞ、海側」
その笑顔が、青空に輝いて見えた。
そうだ、
デートに行こう