昔々、とても豊かな森がありました。
森には大小さまざまな動物と魔物たちが食物連鎖を繰り返し、静かに、強かに暮らしていました。


あるとき、1人の人間がこの森を見つけ、そのあまりに豊かな森に魅せられ、村を築きました。
ですがその村は、大小さまざまな動物と魔物たちの食物連鎖の中に埋もれ、消えてしまいました。


何年か経って、今度は腕に多少覚えのある3人の人間が、その森に村を築きました。
その村は10年ほど栄えましたが、結局は食物連鎖の中に埋もれ、消えてしまいました。


何年か経って、今度は兵隊を連れた領主が、その森に町を築きました。
その町は20年ほど栄えましたが、結局は食物連鎖の中に埋もれ、消えてしまいました。




何年か後にも、何回か人間たちはやってきて、その森に村や町を築きましたが、結局、30年以上栄えることはありませんでした。




そんなことを繰り返しているうちに、人間たちはこの森を恐れるようになりました。
どのような武力をもってしても、この森は人を受け付けない、魔の森だと、人々はうわさします。

王様はこの噂と噂の根源である森にほとほと頭を悩ませ、ついには、森を閉鎖してしまおうという決断を下しました。




王様は、とても腕の立つ魔導師と賢者、錬金術師を呼び寄せ、森に巨大な結界を張るように命令しました。




魔導師は人間以外の生物はけして出れない結界の案をだしましたが、その結界は森の季節をとめてしまうモノでした。
賢者はとても心の優しい人だったので、森の動物たちが死なないように、結界の中の季節を秋で固定しようという案をだしました。
錬金術師は木偶の人形に命を吹き込み、森の出入り口にそれを門番として配置する案を出しました。





そうしてできたのが"黄昏森"…―――年間紅葉樹に覆われた"終わらない秋の森"。

 

 

 

 

 

 

 

 





「って、わけでこの森は恐れられてるってわけ」
「へ、へぇ」

あの後阿部くんは、オレが阿部くんに声をかけた瞬間に気を失ったこと、町まで引きずっていくにはちょっと大変だったので、そのままパーティとして黄昏森に入ったこと、黄昏森が何かを知らないオレに、黄昏森の話をしてくれた。
その間に焚き火はずいぶんと小さくなったが、なるほど、万年秋の気候のこの森では火が無くてもあまり寒くはない。
オレも阿部くんも特に焚き火に新たな枯れ木をくべようとはしなかった。

それにしても、なかなか判りやすい話だったな、なんて思って素直に頷いたら、阿部くんはちょっと目を見開いてからニィって笑った。
なんだとおもって小首を傾げたら「ああ、いや…」なんて歯切れの悪い返事が返ってくる。
なんだか胸の辺りがもやもやとして変な感じ。思わず眉間にしわを寄せたら阿部くんは観念したように「あーその、悪ぃ」なんて断りを入れてから、口を開いた。

「三橋ってなんか、怖がりっぽいし、こういう話聞いたら逃げ出すかと思ってさ」

あはは、なんて笑う阿部くんにちょっとムッとして、反論しようと口を開こうとして、俺はそれに気がついた。




木々の間から見える複数の影。
ギョロリと見える狂気をはらんだ瞳。
その、両手じゃ足りない、異常な数。





明らかに、こちらを狩ろうと狙っている。





何でいまさら、なんて思ってから焚き火の火が完全に消えていることに気がついた。



動物や魔物は、焚き火の火には近づかない、なんていうのは、常識、だ。



気がついた瞬間に、サッと顔から血の気が引く。
その顔に気がついた阿部くんが怪訝そうにしてる。
阿部くん、早く気がついて。
俺、いま、頭真っ白で、足が、口が、動かな…

「おい、三橋、どうし」








ォアァァアァァァアッ!!!








阿部くんの声がまるで合図になったみたいに、影が咆哮を上げた。


輝く石の仄かな光